五番目物
安土桃山時代の「いろは作者註文」に初見が見られるとされる、
比較的遅い時代に制作された鬼退治物。
また、現代の蜘蛛の糸を投げる演出は明治時代の金剛唯一に始まる。
前シテ | 僧 |
---|---|
後シテ | 土蜘蛛の精 |
ツレ | 源頼光 |
ツレ | 胡蝶 |
トモ | 頼光の従者 |
ワキ | 独武者 |
ワキツレ | 従者 |
病気で伏せる源頼光の枕元で古歌を詠む僧。
「わが背子 ( せこ ) が来べき宵なりささがにの」とは古今集の歌であった。
僧は気づけば七尺 (2m) の蜘蛛になり頼光に襲いかかる。
頼光が名刀「膝丸」(大覚寺に現存とも伝えられる。) を持ち、
一太刀浴びせると蜘蛛は傷を負い退散。
葛城山に隠れる蜘蛛を退治しにいく家来、 独武者。
蜘蛛の糸が見事に飛び交う初心者向けの能、5番目物です。
はじめに一畳台が出され、頼光と供の者が出てきます。
頼光の肩に装束がかけてある事で、病で寝込んでいる様子が表されています。
薬を持って見舞う女性が頼光に仕えている胡蝶です。
胡蝶:赤地桜に蝶唐織 頼光:白地霞二紅葉模様縫箔、萌黄指貫、紅地団扇縫箔
「昨日より心も弱り身も苦しみて今は期を待つばかりなり」と弱音を吐く頼光に胡蝶は
「病は苦しき習いながら療治によりて癒ることの例は多き世の中に」と慰めます。
僧:白地大格子厚板、黒水衣、紺地天竺柄角帽子
どこからともなく現れる僧形。同時に胡蝶と従者は退場します。
「月清き夜半とも見えず雲霧(くもきり)の かかれば曇る心かな」
そう詠む僧に頼光は誰かと問いますが、「わが背子が来べき宵なりささがにの」と古歌で返す僧。
そして汝が病むのは我が仕業であると言うと、頼光目掛けて千本の蜘蛛の糸を投げかけます。
頼光も傍にある源家相伝の名刀「膝丸」を持って僧形の蜘蛛に斬りつけ、僧は姿を消すのでした。
騒ぎを聞きつけた独武者が走り込んできます。頼光は事のあらましを語り、蜘蛛を斬りつけた剣の威徳を語り、「今日より膝丸を蜘蛛切と名づくべし」とします。
そして独武者は土蜘蛛の血をたどって土蜘蛛退治に向かいます。
「中入」では「ささがに(蜘蛛の古名、枕詞)」にかけて頼光の屋敷近くに住むササガニ (狂言方)が騒ぎを聞きつけてやってくるという演出もあります(替間カエアイ)。自前のはさみで蜘蛛の巣を切ってやると土蜘蛛退治に向かいます。
土蜘蛛の精:紅萌黄納戸段輪法稲妻杉木立文様厚板、紺地六角井桁文様袷法被、赤地稲妻二雲半切
血の跡を辿って葛城山(かづらきやま)中の古塚に従者と到着した独武者。その塚を突き崩すと中から蜘蛛の精が現れ独武者一行に無数の糸を投げかけ襲いかかります。
「われ昔、葛城山に年を経し、土蜘蛛の精魂なり、なほ君が代に障りをなさんと、頼光に近づき奉れば、かへつて命を絶たんとや」
「汝王地に住みながら、君を悩ますその天罰の、剣に当たって悩むのみかは(膝丸に切られた事)、命魂を絶たん」
蜘蛛の精と独武者は死闘を繰り広げますが、大勢で斬り伏せ、ついに独武者は蜘蛛の首を打ち落とし、喜び勇み都へと戻ります。
Photo by kuma.one , 人見 淳
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